Classification
現在日本においては、理学療法を行う場合、医師の指示が必要です。そこで診断名を元に理学療法を展開することになります。しかし、この医師が処方する診断名すなわち病態学的な診断はかならずしも筋骨格系の理学療法、とりわけ痛みに対する治療方針を決定する助けとなることが多くありません(1).理学療法は痛みなどの症状やそれに関連する機能障害に対してアプローチしますが、解剖学的異常とそれら痛みと機能障害は相関があまりないことが確認されています(2).また例えそれらの関連があったとしても、腰痛患者のわずかな割合がこの病態学的診断にフィットしますが、約85%の患者では非特異性腰痛(non-specific low back pain)というメカニズムが捉えられていない診断名に該当します(3)。すなわち筋骨格系において、痛みが起こるメカニズムが解剖学的な病態異常からくることは議論の余地があり、そのためそれに対する治療に一定のコンセンサスが存在しません。
そのようなことから近年では、理学療法のアプローチに直接結びつくような機能的診断または分類が盛んに研究されています。それはある症状に対し決められた機能的な検査を行い分類することで、ある群にはAの治療、また他のある群ではBの治療というにシステマティックに治療方針を決定するものもあれば、個々の痛みに対する対応として機能異常を大まかに分類していく方法もあります。理学療法がうまくフィットしない原因として、患者の呈する様々なclinical presentationに対応できないという側面があります。そのため患者に対してエビデンスを元に、一人一人にあった効果の高い治療を提供するというためにはこの分類が不可欠です。この動きは理学療法に診断の権利がある(開業権がある)欧米諸国では盛んにみられます。また学部教育の中では、クリニカルリーズニング、鑑別診断およびEBPとともに各症状に対してある一定のコンセプト、フレームワークが提供されているためセラピストは一定の高い水準を満たしていると考えられます。
反対に本邦においては、各セラピストまたは各医療機関でそれぞれバリエーションのある評価法および治療方針が存在することからセラピストの技術力にもバリエーションが存在します。また、日本ではそのほか柔道整復師、鍼灸師、アスレティックトレーナーなどの似たような職種も多く存在するため、果たして理学療法士のプロフェッショナルワークがどのようなものなのかということが疑問視されます。我々はこの理学療法士のプロとしての能力というのは”患者の問題となっている動きに関して詳細の評価およびアセスメントを医学的知識と機能的な知識をベースに展開できる力”と位置づけています。
もちろん外傷などを中心に解剖学的な異常をとらえた診断の重要性は言うまでもありません。また患者が訴える症状は内臓からの関連痛など神経筋骨格系以外からくることもあります。つまり理学療法士は医学的知識をもって、目の前にいる患者が理学療法の適応か適応でないかを判断し(鑑別診断)、もし適応であればコンセンサスのあるシステマチックな機能評価をすることで、より効果的に治療を提供すべきと考えます。以上のことを踏まえ、機能的診断、分類のフレームワークが不可欠であり、それを促進することが理学療法士としての位置付けを確実なものとすると思います。このセクションではクリニカルリーズニングにおいてメインのコンセプトになる、四つの機能的な異常の分類(Functional behavior)について紹介します。
1.The human movement system: our professional identity.Phys Ther. 2014 Jul;94(7):1034-42
2.Nachemson A. Back pain; delimiting the problem in the next millenium. International Journal of Law Psychiatry 1999;22(5–6):473–80
3.DillinghamT.Evaluation and managemen to flow back pain:and overview. State of the Art Reviews 1995;9(3):559–74