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Pain Science

 

はじめに 

 

「すべて痛みは組織損傷から起こるものだ」

「すべて治療はこうした損傷にアプローチしなければ」

「すべて治療はこうした損傷に対して有効である」

「痛んでいるものを治せば痛みも治る」

整形外科領域に神経動力学(Neurodynamics)という名称と概念を浸透させたMichael Shacklock氏の2015年1月11日のブログにこう綴られてあります(1,一部改変して引用)。これであればシンプルだし、何の迷いもない、システマチックに解決できるので万々歳。だが実際は違います。私たちは痛みの中枢メカニズムを認識して以降、こうした考え方やアプローチにマッチしない痛みについて考察できる新たな能力を作り上げてきたのです。中枢メカニズム(痛みに関わる中枢神経系の役割)の認識に伴い、痛みの神経生理学的メカニズムに基づいた分類が発展してきています(2)。こうした風潮は組織損傷や病理に起因して痛みや機能不全が生じるだろうと考えたかつての生物医学的モデルの限界が指摘され始めたことの影響が大きいとされます(2)。一方で、痛み科学というものは非常に分かりにくく、また多くが基礎科学レベルで語られているため、いざ臨床応用しようとしたときに壁にぶつかることは少なくありません(3)。例えば医師の領域では、疼痛メカニズムを適切に判断することでそれに応じたメカニズム特異的な薬物療法が実践できるとされています(中枢性感作に対してはNMDAレセプター、NK1レセプター、神経型一酸化窒素合成酵素、プロテインキナーゼγを標的とした薬物を選択し、処方する)(4,5)。私たち理学療法士においても、作動している疼痛メカニズムあるいは痛みの神経生理学的メカニズムが適切に作動しているのか、または不適切で役に立たないものなのかを区別する必要があり(6)、これによって適切な治療およびマネージメントが実践できると考えられます。例えば疼痛メカニズムのうちの侵害受容性疼痛がその人の痛みに主に関わっているのであれば、刺激と疼痛反応の関係性が高いように観察されますが(例:特定の動きに反応して痛みが出現する)、中枢性感作などの疼痛メカニズムの場合にはその関連性が曖昧になります(7-8)。またSchäferら(2011)は下肢痛を伴う腰痛患者に対して数回に渡る神経モビライゼーションを実施したところ、末梢神経感作に属する疼痛メカニズム患者群に効果的であったことを示しています。つまり、疼痛メカニズムに関わる意思決定が治療アウトカムに影響する可能性があるということです。以上から疼痛メカニズムの判断は理学療法実践における意思決定のうち、重要な位置づけであることは間違いなさそうですが、その判断の基準となるようなデバイスや検査というのは充分に確立されていません(7)。注意深い問診や疼痛パターン、疼痛の行動様式などから各臨床家が判断を下していかなければならず、それには各疼痛メカニズムの理解が必須となります。そこで、まずこのコンテンツでは疼痛メカニズムあるいは神経生理学的メカニズムに基づいた痛みの分類にどのようなものが存在するのかについてまとめ、各疼痛メカニズムがどのようなものか取り上げることとします。

 

  1. Michael Shacklock(2014)「Central Pain Mechanisms and Musculoskeletal Pain-part1」<www.neurodynamicsolutions.com>

  2. Smart KM, O'Connell NE, Dooby C. Towards a mechanisms-based classification of pain in musculoskeletal physiotherapy?. Physical Therapy Reviews. 13(1);1-10,2008.

  3. Jones M, Edward I, Gifford L .Conceptual models for implementing biopsychosocial theory in clinical practice. Manual Therapy. 7(1);2-9,2002.

  4. Woolf CJ, Mannion RJ. Neuropathic pain: aetiology, symptoms, mechanisms, and management. Lancet. 353(9168);1959-1964, 1999.

  5. Woolf CJ. Pain: Moving from symptom control toward mechanism-specific pharmacologic management. Annals of Internal Medicine. 140(6);441-451, 2004.

  6. 亀尾徹.個人で参加したクリニカルリーズニングに関わる研修会資料.2010-201

  7. Gifford LS, Butler DS. The integration of pain sciences into clinical practice. Journal of Hand Therapy. 10(2);86-95, 1997.

  8. Butler DS. The Sensitive Nervous System. NOI Publications. 2000.

  9. Schäfer A, Hall T, Müller G, Briffa K. Outcomes differ between subgroups of patients with low back and leg pain following neural manual therapy: a prospective cohort study. European Spine Journal. 20(3);482-490, 2011.

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Neuropathic pain(作成中)

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