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疼痛メカニズム/神経生理学的メカニズムに基づいた痛みの分類

 

◯◯先生はどんなことを考えているんだろう? どなたでも一度はこのように思ったことがあるのではないでしょうか。結果を出す凄腕の先生方の頭の中身をそっくりそのまま知ることができれば夢のようです。クリニカルリーズニングの世界的権威、Mark Jones氏はそれを可能にしてきたといっても過言ではないかと思います。彼、もしくは彼らの研究成果(1-6)によって、私たち理学療法士がどのような事柄について考えていけば、患者にとっていい結果を出していけるのか導いてくれています。考えるべき事柄の中の一つに「疼痛メカニズム」(下表、病理生物学的メカニズムの欄)があります。

 

仮説カテゴリー(hypothesis category) (1-3を和訳、一部改変して引用)

 

 

 

 

 

 

 

 

各疼痛メカニズムが問題に関与しているのか、回復に対して適切に作動しているのか、あるいは優位に作動している疼痛メカニズムは何なのかなどを判断することにより、的確な治療やマネージメントの実践のワンステップに繋がります。

現在知られている分類は以下のようなものがあります。

 

⚫︎2004年、Woolf(7)
①侵害受容性疼痛(nociceptive pain)
②炎症性疼痛(inflammatory pain)
③神経障害性疼痛(neuropathic pain)

④機能的疼痛(functional pain)

⚫︎1997年、Butler & Gifford(8)
①侵害受容性疼痛
②末梢神経原性疼痛(peripheral neurogenic pain)
③中枢神経原性疼痛(central pain)
情動メカニズム(afffective mechanisms)

自律神経メカニズムと体性運動メカニズム(autonomic and motor mechanisms)

⚫︎1992年-2002年、Jones(1-2)またはJonesら(3)
①入力系メカニズム(input mechanism)ー侵害受容性疼痛と末梢神経原性疼痛
②処理系メカニズム(processing mechanism)ー中枢神経原性疼痛や認知的・感情的影響
③出力系メカニズム(output mechanism)ー体性運動系および自律神経メカニズム

Woolf教授は理学療法士ではなく医師ですので、その疼痛メカニズムの判断によって特異的な薬物療法を適応可能とすることを目的に提唱されたものとなります。その他の分類に関してはより理学療法士に馴染み深いものです。多少名称は異なるものの、ほとんど類似した内容になっています。どのように類似しているのか、これを考えるのに最適なモデルが存在します。それはLouis Gifford氏(1953-2014)によって提唱されたMature Organism Model(以下、MOM)です(9)。本邦では「成人の生命体モデル」と訳されています(10)。Jones(3)は痛み科学を私たちのもつ知識へとオーガナイズするためには、このような健康と能力障害に関わる概念モデルが役立ち、こうしたモデルが臨床的知識と科学的知識をうまく互いに臨床応用できるように広範な枠組みを提供してくれるとしています。MOMは健康(health)の維持や不健康状態(例:痛みや能力障害)からの回復に関わる中枢神経系への入力やそこからの出力に携わる基本的な経路の相互関係を表しています(3)(右図参照)。右図をご覧頂くとお分かりのように組織(tissue)や環境(environment)から情報を抽出し(sample)、それを脳や脳幹、脊髄といった中枢神経系が直面する環境や状況、過去の経験から蓄積された記憶情報、その人の信条や態度、感情、行動の記憶などを踏まえて吟味(scrutinise)し、「病院へ行こうかな」、「ちょっと具合悪いから仕事休もうかな」などといった疾病行動(illness behavior)(11)あるいはその他の行動の変容を起こしたり(altered behavior)、不安定な関節を過剰に保護してみせたり、発汗や立毛筋の活動を亢進させてみたり、呼吸を変えてみたりといった生理学的作用を通して(altered physiology) 私たちのホメオスタシスをキープしようと試みます。これらをそれぞれ「入力系メカニズム(input mechanisms)」、「処理系メカニズム(central mechanisms)」、「出力系メカニズム(output mechanisms)」に分けることができます。これが最も包括的で上で挙げられた分類をこの3つのもとに細分類化することが可能です。以下にまとめてみましょう。また、MOMについてはさらに特別にページを設けていますので、Mature Organism Modelの欄を参考にしていただけると幸いです。

 

疼痛メカニズム

①入力系メカニズム

侵害受容性疼痛

炎症性疼痛

末梢神経原性疼痛

②処理系メカニズム

中枢神経原性疼痛

情動メカニズム

機能的疼痛

③出力系メカニズム

自律神経メカニズムと体性運動メカニズム

 

以下、Butler氏やGifford氏を参考に各疼痛メカニズムについて述べていきます。この分野についてより詳細を知りたい方がいらっしゃれば、このページの一番下に推奨書籍や論文として掲載してありますので、そちらをご覧いただければ幸いです。

 

入力系メカニズム(input mechanisms)

疼痛メカニズムのなかでも最も理解しやすいところです。組織の機械的プロセス(例:伸張力、圧迫力、剪断力など)および生理学的プロセス(例:炎症性メディエーター、神経終末の受容器の活動など)により、高閾値の求心性線維であるC線維やAδ線維が刺激を受け、電気的な連絡を中枢神経系へ送り出すことで発生する痛みです。この疼痛の特徴は刺激と反応の関係性(stimulus/ response relationship)が明確であること、つまり刺激すればそれ相応の痛みという反応が見られやすいということです。加えられていた刺激をストップすれば、痛みも落ち着くのが道理です。もし侵害刺激が繰り返されるようであれば、損傷組織より化学物質が放出され神経終末の閾値を低下させます。またはその刺激によって組織が酸欠状態になったとしても閾値が低下します。

例えば末梢神経系の損傷においても同様、求心性線維からの情報を受け、炎症を促したり強めたりする化学物質を逆行性に産生、放出します。末梢神経では神経幹を取り囲む内膜、周膜、上膜に「nervi nervorum」という求心性線維が存在し、末梢神経の健康維持に一役買ってくれています(12)。このnervi nervorumにはサブスタンスPやCGRPが含まれています。また脊髄の近く、神経根においても脊髄洞神経が神経支配をしています。つまりこれら末梢神経系に対する侵害刺激も中枢神経系へとリレーされ痛みとして知覚されています。このような末梢神経系に由来する侵害受容性疼痛を末梢神経原性疼痛(peripheral neurogenic pain)と定義します。

 

処理系メカニズム(central mechanisms)

最も理解に苦しむ難所といってもいい疼痛メカニズムです。ものすごく端的に言えば、中枢神経系の痛みに関わる回路や処理過程が一時的あるいは長期間・可塑的に変化することによる痛みです。例えば侵害刺激にさらされ続けていると、中枢神経系の細胞はそれに対する反応特性(痛みに対する過敏性の亢進、閾値の低下、受容野の拡大)を変えることができます。これは決して悪いことではなく、自分の体を守ろうと、治癒を促そうとして行った適応的行動である一方、問題となるのが末梢組織が修復され、治癒が完成したあとにも関わらずそのまま残ってしまう、またはどんどん強化されていくことがあり、痛みの原因が末梢組織の損傷等に基づかない、あるいは侵害刺激ともいえない機械的・環境的・情動的・感情的な刺激に対して反応するような、中枢神経系に主に由来した痛みへとシフトしていきます。機能的疼痛(functional pain)とはこのことを指し、組織損傷や侵害刺激に依存しない中枢神経系の処理過程の変容によって生じた痛みと捉えています。

この領域の科学的エビデンスは脊髄後角(dorsal horn)を対象としたものが多いです。末梢組織や末梢神経系から中枢神経系へと伝達されるプロセスのなかで、末梢から中枢へと切り替わる第一区となるのがこの解剖学的部位です。組織損傷が起こった場合、受傷後数時間以内に発生しうる現象とされます。

 

  • 後角における反応性の変化

後角細胞は本来の仕事を忘れます。単に送られてきた侵害刺激を上へと伝える働きを超え、その他の入力情報まで自分で処理しようとし始めます。本来Aβ線維は触圧覚刺激や関節運動のような非侵害刺激を伝える感覚線維ですが、後角によって痛み経路へとレール変更されます。この現象は二次性痛覚過敏(secondary hyperalgegia)と称され、通常では非侵害刺激であるような触診でも圧痛として現れたり、愛護的なROMエクササイズでも痛みが出たりします。私たち理学療法士が例えば組織鑑別をしようとしたとき、こうした現象によって検査結果に偽陽性が生じる原因の一つとして考えられています。急性腰痛の患者さん、膝関節の急性捻挫の患者さん。どう動かしても痛かったり、どこを触っても痛かったりしますよね。回復とともに本当に悪い部位がクリアになってくる筈です。

 

  • 後角における侵害受容器に対する反応の強化

刺激がやんだとしてもしばらくの間は活動をやめることを知りません。さらには末梢刺激が繰り返されれば繰り返されるほど、後角細胞はその活動期間を延長します。これはワインドアップ現象(wind-up phenomenon)として知られます。

 

  • 後角における受容野の増加

受容野(receptive field)とはある一つの神経が支配する組織の範囲のことをいいます。例えば木の枝のように伸びている自由神経終末1本が首の後ろの皮膚の感覚を支配できるのはおおよそ直径15mmくらい、といった具合で考えます。複数の求心性線維は一つの後角細胞に集約します。つまり一つの神経終末でいえば首の後ろの15mm程度の範囲でしか神経支配できませんが、一つの後角細胞からみれば、首の下部領域すべての皮膚を支配している、といったかたちで考えられます。このような複数の求心性線維と後角細胞の連絡は、通常であればいくつかは不活動状態にあります。末梢組織にみられる受容器もそうですね。すべての侵害受容器のうち1/3は不活動状態にあり(silent nociceptor)、すべての侵害受容器を使い切ることはないかもしれません。たちまち損傷ともなれば眠りから覚め、通常よりも後角に対するコネクションが増えてしまうので受容野が拡大するということになります。

 

  • 後角細胞の自発的活動

これはその名のとおり、求心性情報に依存しない後角細胞の自発的活動がみられます。

 

こうした変化は脊髄後角のみならず大脳レベルや脳幹レベルにも類似したメカニズムが起こるようです。ひとくくりにこのような中枢神経系における反応性の増大を中枢性感作(central sensitization)と呼びます。

また、脳レベルでいえば情動や認知といった次元で痛みに関与する可能性が既に報告されています。この領域については「Pain Matrix」の項目にて述べていきます。

 

出力系メカニズム(output mechanisms)

出力系メカニズムは一般的に体性運動メカニズム(somatic motor mechanism)、自律神経メカニズム(autonomic mechanism)、神経内分泌メカニズム(neuroendocrine mechanism)、神経免疫メカニズム(neuroimmune mechanism)、そして下行性疼痛調節系(descending pain control systems)に分けられます。出力系は身体や環境からの入力情報や過去の経験・記憶から得られた情報、現在おかれている状況などを中枢神経系/脳が吟味した結果に基づいて活動します。これらすべての活動が痛みの知覚の程度や、直接的にも間接的にも機能レベルに影響を及ぼします。体性運動メカニズムについていえば、この分野は多くの書籍や論文等に掲載されているところでもありますし、movement-based therapistにとってスペシャリティーを発揮するところでもあるでしょう。

 

当サイトで疼痛メカニズムを取り上げたのは情報共有も然り、痛み科学や痛みの定義が曖昧ななか当サイト内におけるディスカッションの方向性や対象にある程度の統一感をもたせる意味合いも含まれています。またその目的で、神経障害性疼痛(neuropathic pain)についても言及し、このサイト内における一定の見解をもたせたいと考えております。各項目をご覧下さい。

 

  1. Jones M. Clinical reasoning in manual therapy. Physical Therapy. 72;875-884, 1992.

  2. Jones M. Clinical reasoning and pain. Manual Therapy. 1;17-24, 1995.

  3. Jones M, Edwards I, Gifford L. Conceptual models for implementing biopsychosocial theory in clinical practice. Manual Therapy. 7(1);2-9, 2002.

  4. Edwards I, Jones M, Carr J, Braunack-Mayer A, Jensen G. Clinical reasoning strategies in physical therapy. Physical Therapy. 84;312-330, 2004.

  5. Edward I, Jones M, Hilier S. The interpretation of experience and its relationship to body mmovement: A clinical reasoning perspective. Manual Therapy. 11(1)2-10, 2006.

  6. Jones M, Grimmer K, Edwards I, Higgs J, Trede F. Challenges in applying best evidence to physiotherapy. The Internet Journal of Allied Health Sciences and Practice. 4(3);1-8, 2006.

  7. Woolf CJ. Pain: Moving from symptom control toward mechanism-specific pharmacologic management. Annals of Internal Medicine. 140(6);441-451, 2004.

  8. Gifford LS, Butler DS. The integration of pain science into clinical practice. Journal of Hand Therapy. 10(2);86-95, 1997.

  9. Gifford LS. The Mature Organism Model. In: Gifford LS(ed) Toppical Issues in Pain 1. Whiplash - science and management. Fear-avoidance beliefs and behaviour. CNS Press, Falmouth.

  10. Jones M, Rivett D(編集), 藤縄理, 亀尾徹(監訳). マニュアルセラピーに対するクリニカルリーズニングのすべて.協同医書出版社.2010.

  11. Sirri L, Fava GA, Sonino N. The unifying concept of illness behavior. Psychotherapy and Psychosomatics. 82;74-81, 2013

  12. Bove G. Epi-Perineurial Anatomy, Innervation, and Axonal Nociceptive Mechanisms. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 12(3);185-190, 2008.

 

推奨書籍や論文

  • Butler DS "The Sensitive Nervous System" <http://www.noigroup.com/en/Product/NSB>

  • Gifford LS "Topical Issues in Pain1" <http://giffordsachesandpains.com/download-material/reading/topical-issues-in-pain-1-chapters-and-editorial/>

  • Gifford LS, Butler DS. The integration of pain sciences into clinical practice. Journal of Hand Therapy. 10;86-95, 1997.

  • Jones M, Rivett D(編著), 藤縄理, 亀尾徹(監訳). マニュアルセラピーに対するクリニカルリーズニングのすべて.協同医書出版社. 2010.

  • Smart氏による痛みのメカニズムに基づいた分類の一連の研究

    • Smart KM, O'Connell NE, Dooby C. Towards a mechanism-based classification of pain in musculoskeletal physiotherapy?. Physical Therapy Reviews. 13(1);1-10, 2008.

    • Smart KM, Blake C, Staines A, Dooby C. Clinical indicators of 'nociceptive', 'peripheral neuropathic' and 'central' mechanisms of musculoskeletal pain. A Delphi survey of expert clinicans. Manual Therapy. 15(1);80-87, 2010.

    • Smart KM, Blake C, Staines A, Thacker M, Dooby C. Mechanisms-based classifications of musculoskeletal pain: part1 of 3: symptoms and signs of nociceptive pain in patients with low back(±leg) pain. Manual Therapy. 17(4);336-344, 2012.

    • Smart KM, Blake C, Staines A, Thacker M, Dooby C. Mechanisms-based classifications of musculoskeletal pain: part2 of 3: symptoms and signs of peripheral neuropathic pain in patients with low back(±leg) pain. Manual Therapy.17(4);345-351, 2012.

    • Smart KM, Blake C, Staines A, Thacker M, Dooby C. Mechanisms-based classifications of musculoskeletal pain: part3 of 3: symptoms and signs of central sensitization in patients with low back(±leg) pain. Manual Therapy. 17(4);352-357, 2012.

活動および参加に関する能力と制限

経験に基づいた患者またはクライアントの考え

病理生物学的メカニズム(組織治癒メカニズムと疼痛メカニズム)

身体機能検査および治療における禁忌/要注意事項

身体機能障害とそれに関連した原因組織

関連因子

対処方法

予後

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Pain Matrix(作成中)

Neuropathic pain(作成中)

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クリックして拡大(9より引用)

クリックして拡大(7より引用)

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