Step5:効果の確認
EBMの実践、最後の手順は患者に適応した介入方法が本当に有効であったかを検討することです。
ここでは2つののポイントを提示したいと思います。それは、
1.患者の本当の問題を適切に捕らえられていたか?
2.効果を確認する適切なアウトカムの指標が選ばれたか?
の2つです。
1.患者の本当の問題を適切に捕らえられていたか?
かの有名なMaitlandの著書に、ちょっと印象的なイラストがあります。そのイラストというのは、コミュニケーションの衝突を表現した誰かのコメントが載っているものが以下のようなものです。
『I know that you believe you understand what you think I said but, I am not sure you realize that what you heard is not what I meant!』(1)
要は、『お前は俺が言いたいことをちゃんと理解していると思っているんだろうけどな、お前が聞いたことと私が本当に伝えたいことは違ってんだ!』というものです。
他のコンテンツでも説明がありますが、本邦は治療全体を包括するようなフレームワークが欠如しているにも関わらず、治療のテクニックが乱立しているという矛盾のような状態が起こっています。そんな中で、患者の本当によくしてもらいたい問題を知らず知らずに無視して、理学療法士が良くしたい状態に近づけていることも多いでしょう。
例えば、腰痛を治したくてよっとたどり着いた病院で姿勢良くなっていい感じですと理学療法士が言うような形です。もしかしたらその患者は、痛みの変わらないその腰を少しでも良い状態に保とうと良い姿勢を保ち続けるかもしれません。これは単にその人のADLを制限しただけではないでしょうか?
患者の問題空間を理解し、真に困っていること、そしてその背景にあるだろう問題は何かを理解することが本当の意味でのEBMの実践を成功する鍵となります。そしてEBMは決して科学的ものではなく極めて臨床的なものだと意識づけるものだと思います。
2.効果を確認する適切なアウトカムの指標が選ばれたか?
治療の効果を確認するときに、痛みの改善で一般的に使用されるのはVASなどです。一方でADLの改善についてはFIMなどが代表的です。その他にも大まかな改善の程度示す基準としてGlobal Rating of Changing scale(GRC)、症状の部位に特化したDisabilities of the Arm ,Shoulder and Hand(DASH),症状の質やメカニズムに特化した Leeds Assessment of Neuropathic Symptoms and Signs pain scale(LANSS)、さらには関節の運動に着目するなら関節可動域測定もその一種として挙げられます。患者とのコミュニケーションとの中で、『調子はどうですか?』の問いに『何も効果がない』という返答があっても、『では膝の曲がりはどうですか?』と聞くと、『それは前回よりものすごく曲がるよ』という返答はしばしば遭遇します。ここでも患者の意図する問題は何なのか、そしてその問題の変化を正確に測りとるためにはどのようなアウトカム指標が必要なのかについて考えていくことが求められるでしょう。
終わりに、ここまで説明したEBMのステップというのは全く特殊なものではなく、理想的な臨床実践そのものだということを感じた人が多いかと思います。
このセクションではここから各論として、効果や診断、予後の検討を行った臨床試験はそれぞれどう違うのか?さらにはそれらの数値はどう臨床に活かすべきなのかを説明していきます。しかしそれらはあくまで作業的な情報で、EBMの実践の核となるのはあくまでこの5つのステップであると言えるでしょう。
(1)Hengeveld,Banks :Maitland’s Peripheral manipulation 4th edition 2005