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診断・鑑別診断の検査

 

疾患をルールインまたはルールアウトするための検査は非常に有用な検査です。

整形外科検査に限定しる言えば、肩のNeer testや膝のLachmann testなどがその例です。

ではこれらの検査をどのように扱うべきでしょうか?

運動・動作を改善することを目標とする我々にとって、この疾患がある、またはないということはそんなに重要なことでしょうか?

さらには前述のNeer testやLachmann testが陽性または陰性だからルールインまたはルールアウト出来たと言えるでしょうか?

ここでは診断・鑑別診断を目的とした検査の結果の解釈がどうあるべきかについてEBMの哲学に沿って考えて行きたいと思います。

 

 

『臨床的なエビデンスとして検査結果を扱う』

例えばLachmann testが陽性であった患者について考えてみましょう。

この検査結果から考えられることはまず前十字靭帯の損傷です。

ではこれが理学療法実践にどのような影響を及ぼすでしょうか?

これについてJonesの仮説カテゴリーを使って考えて行きます。仮説カテゴリーは臨床家の思考・仮説を整理するためのツールで、以下のように分類されます。

 

活動参加 能力/制限

・症状に対する患者の考え

・病理生物学的メカニズム

・機能障害とその原因組織

・関連因子

・禁忌注意事項

・治療/対処方法

・予後

 

上記のツールにLachmann test陽性,前十字靭帯損傷という情報をあてがうと、それだけの情報でも以下のように整理されるかもしれません。

 

活動参加 能力/制限

カット・ツイスト動作等が困難な可能性が高い

動作時のgiving wayの発生

・症状に対する患者の考え

Giving wayやその際に生じる痛みへの恐怖感

・病理生物学的メカニズム

侵害受容性疼痛

ACLは炎症期~修復期の時期に相当するが、構造的な回復の期待はほとんどない

・機能障害とその原因組織

膝の機能的な不安定性障害

・禁忌注意事項

膝の前方引き出しを促す検査・治療・動作への注意

・治療/対処方法

手術の適応

MRIなどの画像検査の必要性

膝専門医への相談

・予後

ACLの保存療法の復帰率は50%程度

 

というように単一の検査の情報だとしても多くのことを考え整理することができます。ここにその他の主観的評価や客観的評価の情報が加わると、仮説のおよぶ範囲はより大きなものになります。

こういった一つの所見に対して臨床的に多くのことに目を向けることが対象者を中心とした医療実践のためには非常に重要になると言えるしょう。

 

『科学的なエビデンスとして検査結果を扱う』

科学的な情報として、検査の結果を適切に扱うには検査の目的だけではなく、その精度に関する情報を扱う必要性があります。

代表的なものとして以下を覚えておく必要性があるでしょう。

 

・感度 Sensitivity

・特異度  Specificity

・陽性/陰性尤度比  Likelihood Ratio

 

感度と特異度はそれぞれ

 

感度;陽性のものを真に陽性という確率

特異度;陰性のものを真に陰性という確率

 

を意味します。

つまり感度が高いものほど、陽性である可能性が高く、偽陽性が少ないことを意味します。

よって臨床上は感度が高いものが陰性であった場合には、大きな確率でその疾患を否定できるという使い方をします。

これを

 

Sensitivity=Rule Out    SeOut(セナウト)

 

という言葉で表現します。

一方で特異度が高いものほど、陰性である可能性が低く、偽陰性が少ないことを意味します。

よて臨床上は特異度が高いものが陰性であった場合には、大きな確率でその疾患を肯定できるという使い方をします。

これを

 

Specificity=Rule In    SpIn(スピン)

 

という言葉で表現します。

とても便利な使い方ですし、精度がこれにより高まるため余計な検査を省略することができます。

 

では尤度比はどう扱うべきでしょうか?これは感度・特異度と異なり陽性のものを陽性として、陰性のものを陰性として扱うことができます。一見すると%表記される感度・特異度よりも解釈が不便なように感じます。

しかし実際には尤度比の方が臨床上は有用性が高い場合もあります。

その理由の一つがノモグラムの使用です。

 

ノモグラムを使うと、臨床家(分野とフィールドの異なる)が陽性・陰性と鑑別した問題がどのくらい可能性が高いのかを予測することができます。

例を挙げると、以下のような患者がいたとします。

「スキーで膝を捻って受傷した。受傷時に膝のゴキッとした音とともに膝が外れるような感じがあった。他院で水を抜いた際には血腫が引けた。それ以来膝の不安定感がずっと残っている」

多くの方はこの情報から前十字靭帯損傷を疑うのではないかと思います。

ではその可能性は何%でしょうか?多分これは経験だったり、膝の知識に長けているだったりの違いで大小あるのではないかと思います。

ここでPTは70%(Pre Test Probability)の確率でACLが陽性と考えたとします。

この鑑別を行うために、Lachmanテストを行いました。

Lachmanテストの陽性尤度比は42(Solomon et al 2001)です。

上記2つの数値をノモグラムにプロットすると可能性(Post Test Probability)は99%となります。

よってPTの予測はこの時点でACLの可能性99%となり、すぐにでもMRIをとるかドクターと相談をする必要性があります。

といった感じでノモグラムを使うと予測の精度を向上できます。

上記はルールインに関する鑑別でしたが、ルールアウトに関する手順も同様です。

 

以上のように診断や鑑別診断に関する検査は臨床的な部分では理学療法と患者の予後にどう影響するかによって情報の利用の仕方が異なりますし、こういった内容はPTの経験や人間性にも影響を受けるかもしれません。

同時に各検査値の使い方を理解することで間違ったラベルの貼り方や過剰な検査を避けることも出来るでしょう。

いずれにしても必要最低限な医療行為が望まれる昨今では心得る価値がある内容であると感じます。

 

 

Further reading

1.Davidson M: The interpretation of diagnostic test:a primer for physiotherapists Aust J Physiother.2002;48(3):227-32

 

http://ac.els-cdn.com/S0004951414602282/1-s2.0-S0004951414602282-main.pdf?_tid=2a5e5fc6-e332-11e4-b91c-00000aacb35f&acdnat=1429076712_e9f731249d2680ad40effc5a8fcdeb75

 

2.Jones M: Challenges in applying best evedence to physiotherapy practice:Part2 -Health and clinical reasoning models to facilitate evidence based practice IJAHSP2006 Vol.4No.4

 

http://ijahsp.nova.edu/articles/vol4num4/jones.pdf

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